Eric Clapton – Holy Mother (紹介&和訳)

今回ご紹介するのは、エリック・クラプトンの「Holy Mother」です。

Holy Mother (1986)

スタジオ・ヴァージョン – アルバム『August』収録

ライヴ・ヴァージョン – In Birmingham 1986

歌詞 & 和訳

Holy Mother, where are you?
Tonight I feel broken in two
I’ve seen the stars fall from the sky
Holy mother, can’t keep from crying

Oh I need your help this time
Get me through this lonely night
Tell me please which way to turn
To find myself again

Holy mother, hear my prayer
Somehow I know you’re still there
Send me please some peace of mind
Take away this pain

I can’t wait, I can’t wait
I can’t wait any longer
I can’t wait, I can’t wait
I can’t wait for you

Holy mother, hear my cry
I’ve cursed your name a thousand times
I’ve felt the anger running through my soul
All I need is a hand to hold

Oh I feel the end has come
No longer my legs will run
You know I would rather be
In your arms tonight

When my hands no longer play
My voice is still, I fade away
Holy mother, then I’ll be
Lying in, safe within your arms

聖なる母よ、どこにいるんだ?
今夜は身体が引き裂かれるようだ
星が空から落ちてくるのを見たよ
聖なる母よ、涙がとまらない

今、貴女の助けが必要なんだ
この孤独な夜をしのがせてくれ
どの道を辿ればいいか教えてくれ
自分をもう一度見つけるために

聖なる母よ、祈りを聴いてくれ
なぜか貴女がそこにいると感じるんだ
いくらかの心の安らぎを与えてくれ
この苦しみを取り除いてほしい

もう待てない、もう待てない
もう待てない、これ以上は
もう待てない、もう待てない
もう待てない、貴女のことを

聖なる母よ、嘆きを聴いてくれ
貴女の名を千回も呪った
怒りが心を巡ったこともあった
ただ握れる手が欲しいだけなのに

最期の時が来たのを感じる
もう走ることもできない
今夜はむしろ願っているよ
貴女の腕に抱かれたいと

祈ることができなくなったとき
声は残っていても、俺は消えていく
聖なる母よ、貴女の腕のなかで
横たわり、安らかに眠るだろう

収録アルバム

August (1986)

① It’s in the Way That You Use It (Eric Clapton, Robbie Robertson)
② Run (Lamont Dozier)
③ Tearing Us Apart (Clapton, Greg Phillinganes)
④ Bad Influence (Robert Cray, Michael Vannice)
⑤ Walk Away (Richard Feldman, Marcella Detroit)
⑥ Hung Up on Your Love (Dozier)
⑦ Take a Chance (Clapton, Nathan East, Phillinganes)
⑧ Hold On (Clapton, Phil Collins)
⑨ Miss You (Clapton, Bobby Columby, Phillinganes)
Holy Mother (Stephen Bishop, Clapton)
⑪ Behind the Mask (Chris Mosdell, Ryuichi Sakamoto, Michael Jackson [uncredited])
⑫ Grand Illusion (Bob Farrell, Dave Robbins, Wesly Stephenson)

ひとこと

H31.4.20にエリック・クラプトンの武道館ライヴに参加して以来、自分の中でのクラプトンブームが未だ収まっていません。R1.5.12に放送された『THE LIVE : エリック・クラプトン 2014年』も、クラプトンの音楽への熱と日本への愛が感じられる素晴らしい番組でした。というわけで、今回もクラプトンの名曲をご紹介します。

さて、人が苦悩するときに聴く音楽にはいくつかのヴァリエーションがあると思いますが、個人的には [① 人の悩みを笑い飛ばす曲] [② 悩む人を励ます曲] [③ 一緒に悩む曲] あたりに大別されると思います。

① ② のように笑い飛ばしたり励まされたりして解決できる悩みならいいのですが、本当に深く落ち込んでいるときには ③ のような楽曲を聴くと、救われた気分になれます。今回ご紹介する「Holy Mother」はまさにそういう楽曲です。

ドキュメンタリー映画 『エリック・クラプトン~12小節の人生~』では、ドラッグとアルコールに溺れた時代も含め、クラプトンの激動の人生が描かれた

歌詞の内容は明らかにキリスト教に関係があり、聖母マリアによる救いを求めるものです。このあたりは、深読みすればクラプトン自身の経験に根差しているのでしょう。1970年代から1980年代にかけて、クラプトンはドラッグとアルコールへの依存により、地獄のような日々を送っていました。

その頃、クラプトンは「救い」を強く求めていたことでしょう。しかし、状況が容易に改善することはなく、そんな折には全てを呪ったことがあったのかもしれません。 まさに、歌詞にある「貴女の名を千回も呪い、怒りが心を巡ったこともあった」 というところでしょうか。

それでも、1986年にアルバム『August』をリリースする頃には、クラプトンは依存症からほぼ立ち直り、音楽活動に注力するようになっていました。同アルバムの収録曲である「Holy Mother」を聴くと、落ち着いた歌声からはクラプトンの敬虔な祈りが、力強いギタープレイからは生への希望が感じられるようです。

「Holy Mother」が生まれる契機となったアーティスト:プリンス

また「Holy Mother」という名曲が生まれた背景には、アメリカの伝説的なアーティストであるプリンスの影響が大きいとのこと。2016年にプリンスが死去した際、 クラプトンは以下の追悼文をフェイスブックで発表しています。

プリンスの死については本当に悲しんでいる。彼は真の天才であり、本当の意味で僕にとって巨大なインスピレーションだった。80年代、アルコールとドラッグの堕落のスパイラルのなかでツアーをやっていなかった時に、カナダで映画『パープル・レイン』を観たんだ。僕は彼を知らなかった。雷が落ちたようだった!当時、ミュージック・カルチャーに絶望し、忌み嫌っていた状態のなかで希望を与えてくれた。彼は闇のなかの光のようだった…ホテルに戻って、空っぽになったビールの空き缶に囲まれながら、僕は“Holy Mother”を書いたんだ。彼が亡くなったことが信じられない。

クラプトンの人生は波瀾万丈なもので、特にドラッグとアルコールに溺れた70年代から80年代にかけては暗黒の時代でした。それでも、クラプトンは2007年に発表した自叙伝では「私に恥ずべき過去はない」とまで言い切っています。

私見になりますが、彼がそこまで立ち直ることができたのは「音楽の力」によるのではと思います。プリンスの存在や音楽に触れてこの曲が生まれたと語っていることからも察されるとおり、素晴らしい音楽こそが、彼にとって唯一の救いであり信仰だったということでしょう。

「Holy Mother」が収録されたアルバム『August』は「商業路線」といった評価を下されることありますが、そのように敬遠するにはもったいない名曲です。また、ライヴ・ヴァージョンでは前述の魅力を余すことなく堪能できますので、ぜひともご一聴ください。

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