The Who – Baba O’Riley (紹介&和訳)

今回ご紹介するのはザ・フーの「Baba O’Riley」です。

Baba O’Riley (1971)

この曲について

概要

「Baba O’Riley(ババ・オライリィ)」は、イギリスのロックバンドであるザ・フーの楽曲。1971年にリリースされた第6作『Who’s Next』のオープニングトラックであり、ヨーロッパ諸国では同作の収録曲「My Wife」をB面としてシングルカットされた。

タイムズ誌の「All-Time 100 Songs(オールタイム100ソングズ)」や、ロックの殿堂の「500 Songs That Shaped Rock and Roll(ロックンロールを形作った500曲)」にピックアップされたほか、ローリングストーン誌による「The 500 Greatest Songs of All Time(ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500)」では349位にランクインした名曲だ。

左からロジャー・ダルトリー(Vo.)、ピート・タウンゼンド(Gt.)、ジョン・エントウィッスル(Ba.)、キース・ムーン(Dr.)

制作の経緯

「Baba O’Riley」は、1969年にリリースされた第5作『Tommy』のコンセプトを引き継ぐアルバム『Lifehouse』に収録される予定であった。 ザ・フーは『Tommy』で「父の犯した殺人を目撃したショックで視覚・聴覚・発話障害の三重苦を負う少年 “Tommy”」を主人公とする物語をアルバムを通して描き上げた。

このようなアプローチは「複数の楽曲を組み合わせて1つの物語を形成する」という趣旨から「ロック・オペラ」と名付けられ、『Tommy』はザ・フーの評価をシングル・ヒット・メイカーからアルバム・アーティストへと転換させた。

ロンドンにある自宅のスタジオで作曲するタウンゼンド

『Tommy』の成功を受け、同バンドのギタリストであるピート・タウンゼンドは『Lifehouse』で「スコットランドの農民である “Ray” という人物が、彼の妻と2人の子供を連れてロンドンへ脱出する」という物語を描くことを試みた。

しかし、同バンドのマネージャーであったキット・ランバートが『Lifehouse』に興味を示さなかったことや、タウンゼントの書いた脚本があまりに難解で他のメンバーが理解できなかったことを原因として、『Lifehouse』の計画は頓挫する。

その後、タウンゼンド以外のメンバーが『Lifehouse』のコンセプトを破棄してアルバムを制作することを希望したため、『Lifehouse』の要素のみを活かして『Who’s Next』が制作された。紆余曲折を経て完成した『Who’s Next』だが、タウンゼンドは同作を妥協と挫折の副産物とみなして嫌っていたという。

しかし、そんなタウンゼンドの想いとは相反するように、『 Who’s Next 』はリリース直後から大ヒットとなり、その後も多くの批評家が同作を「ザ・フーの最高傑作」もしくは「ロックにおける最高峰の作品」と評価した。タウンゼンドも後には「俺の頭が最も冴えて、最も能力に満ちていた時期だった」と述懐している。

解釈と魅力

『Who’s Next』の収録曲は、4曲目の「My Wife」を除く全てが『Lifehouse』への収録予定曲であったため、上述の制作の経緯を知っておくことは楽曲を解釈する助けとなる。「Baba O’Riley」も例外ではなく「スコットランド人の農民である “Ray” が、彼の妻と子供を連れてロンドンへ脱出する物語」 というコンセプトを踏まえれば、歌詞の概要は理解できるだろう。

「Baba O’Riley」という不思議な曲名は、タウンゼンドが傾倒していたインドの神秘家メヘル・バーバー(Meher Baba) と、同曲の作曲に影響を与えたアメリカの作曲家テリー・ライリー(Terry Riley)のファーストネームを合わせたもので、歌詞の内容と直接的な関係はない。

ただし、 当時タウンゼンドは「特定の人物のバイタル・サインをシンセサイザーに入力して作曲する」というアプローチに凝っており、同曲に関してはメヘル・バーバーをプログラミングすることにより生み出されたと語っている。

メヘル・バーバー(左)とテリー・ライリー(右)

なお、曲中で「Teenage Wasteland(10代の荒野)」と繰り返し歌われるため、曲名も「Teenage Wasteland」だと誤解する人が多いが、実際にこの曲はそう名付けられる予定であった。

この「Teenage Wasteland」という言葉の解釈について、タウンゼンドは「”Baba O’Riley”はウッドストックで目にした若者達の荒廃ぶりについて歌った曲だ。若者達は麻薬を常用し、多くが脳に損傷を受けていたんだ。この曲が”10代への賛歌”として受け取られることがあるのは皮肉だね」と語っている。上述の経緯とはかけ離れた内容の発言であり、タウンゼンドが本気で言ったことかは分からないが、解釈の一助にはなるだろう。

ザ・フーは豪放なライヴ・パフォーマンスに定評があった

最後に個人的な所見を述べれば、この曲にはロックに必要な全ての要素が詰まっている。ロジャー・ダルトリーの力強いハイトーンヴォーカル、ピート・タウンゼンドの鳴り響くギター、ジョン・エントウィッスルの唸りをあげるベース、キース・ムーンの豪快ながら歌心のあるドラミング…どれも至高のパフォーマンスだ。

既に何百回聴いたか分からないが、全く飽きることがない。ジョン・エントウィッスルとキース・ムーンが世を去り、オリジナルメンバーでの演奏が不可能なのは惜しむべきだが、「Baba O’Riley」の演奏音源やライヴ映像は今後もロック界における大いなる遺産として扱われていくことだろう 。

歌詞 & 和訳

Out here in the fields
I fight for my meals
I get my back into my living
I don’t need to fight
To prove I’m right
I don’t need to be forgiven

Don’t cry
Don’t raise your eye
It’s only teenage wasteland

Sally take my hand
We’ll travel south cross land
Put out the fire
And don’t look past my shoulder
The exodus is here
The happy ones are near
Let’s get together, before we get much older

Teenage wasteland
It’s only teenage wasteland
Teenage wasteland
Oh yeah, teenage wasteland
They’re all wasted!

この荒野で
俺は糧を得るために戦う
生きるために全力を尽くす
正しさを証明するために
戦う必要はないし
許される必要だってない

泣くなよ
そんな目をするなよ
たかが10代の荒野じゃないか

サリー、俺の手をとってくれ
南へはるかな旅をするんだ
火を消して
肩越しに過去を振り返らず
脱出のときは今だ
幸せはすぐ近くにある
一緒に行こう、年老いてしまう前に

10代は不毛な時代
たかが10代の荒野だ
10代は不毛な時代
10代に実りはない
全てが無駄なんだ!

収録アルバム

『Who’s Next』1971年リリース
  1. Baba O’Riley (Pete Townshend)
  2. Bargain (Townshend)
  3. Love Ain’t For Keeping (Townshend)
  4. My Wife (John Entwistle)
  5. Song Is Over (Townshend)
  6. Getting In Tune (Townshend)
  7. Going Mobile (Townshend)
  8. Behind Blue Eyes (Townshend)
  9. Won’t Get Fooled Again (Townshend)

コメント

  1.   より:

    この荒野で
    俺は糧を得るために戦う
    生きるために全力を賭ける
    正しさを証明するために
    戦う必要はないし
    許される必要だってない

    この文章は人生の本質を突いている。
    自分は名文だと思う。
    20年早くこの曲と、この訳を知りたかった。

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