今回ご紹介するのは、ブラック・サバスの「Anno Mundi」です。
歌詞&和訳
Spiritu Sanctus Anno Anno Mundi…
Can you see me, are you near me?
Can you hear me crying out for life?
Can you tell me, where’s the glory?
Ride the days and sail the nights
When it’s over you’ll find the answer
Running in the whispering rain
Anno Mundi? Can you wonder!
Truth of thunder, life or blame
Do you see a vision of a perfect place?
Does it make you laugh,
put a smile on your face?
Do you need a mirror, do you see it well?
Does the hand of God still toll the bell?
There are people laughing
They’re all laughing on you
If only they could see what you’re saying is true
Still generals fighting, making war on the world
Don’t they know, don’t they know?
The wind in the night blows cold
Your eyes are burning
As the sands of our time grow old
Anno Mundi
Do you follow the path that so many tread?
Are you among the blind so easily lead?
Do you join the war, do you fight for the cause?
Depend on another to fight it alone
Can you see me now, can you hear me now?
Can you tell me, where’s the glory?
Ride the days and sail the nights
When it’s over, you’ll find the answer
Runnin’ in the rain
There’s a hope that’s growing and a vision too
All those angry hearts now reach out for you
Do you look to the dawn, see a new day begun?
No longer the fool, the vision is done
アンノ・ムンディ、聖なる魂よ…
俺が見えるか、近くにいるのか
必死に叫んでいるのが聞こえるか
教えてくれ、栄光はどこにある
昼を乗り切り、夜を航海して
それが終われば答えが見つかるさ
囁くような雨の中を走りながら
アンノ・ムンディ、想像できるかい
真実か雷鳴、生命か責苦を
理想郷のビジョンが見えるか
お前を笑い声を上げさせて、
その顔に笑みを張り付けるような
鏡が必要かな、よく見えるかい
神の手は未だに鐘を鳴らすのか
人々が笑っているよ
彼らは皆、お前を笑っているんだ
お前の話が真実だと分かりさえすればな
今なお将軍達は戦い、世に争いを起こす
彼らは知らない、知らないのだろうか
夜の風は冷たく吹く
お前の眼は燃えている
人は刻一刻と老いていく
アンノ・ムンディ
踏み慣らされた道筋を辿るのか
盲人に囲まれて進むことができるのか
戦争に参加して、大義のために戦うのか
戦い抜くために、他人を犠牲にしながら
俺が見えるか、声が聴こえるか
教えてくれ、栄光はどこにある
昼を乗り切り、夜を航海して
それが終われば答えが見つかるさ
雨の中を走りながら
希望は育ち、未来も残されている
全ての怒れる心はお前に手を差し伸べる
夜明けが、新しい日が始まるのが見えるか
もう愚者ではない、ビジョンは現実になった
ひとこと
「Anno Mundi」は、ヘヴィメタル界の巨人:ブラック・サバスの第15作『Tyr』のオープニングトラックです。
「Tyr」とは
アルバムタイトルである「Tyr」はドイツ語で、北欧神話やゲルマン神話における軍神:テュールを指します。テュールはもともと法と豊穣を司る天空神かつ最高神(主神)でした。※よく似た名前ですが、雷神:トール(Thor)とは別の神。
しかし、2世紀後半以降にゲルマン人が激しい戦乱の時代を迎えたことにより、戦争と死の神:オーディンが最高神として信仰されるようになり、テュールは最高神の座から転落、一介の軍神として扱われるようになったようです。
このように「Tyr」は北欧神話やゲルマン神話に由来する言葉であり、アルバム『Tyr』においても「The Battle Of Tyr (テュールの戦い)」「Odin’s Court (オーディンの宮殿)」「Valhalla (ヴァルハラ ※北欧・ゲルマン神話における天国)」といった神話に材を取った楽曲が収録されています。
そのため『Tyr』を「作品全体が北欧・ゲルマン神話に由来するコンセプト・アルバム」と解する向きもあるようですが、この点に関してはどうやら考えすぎのようです。
というのも、『Tyr』制作時のベーシストであったニール・マーレイが、2005年に「収録曲の多くが(北欧・ゲルマン神話に)関連しているように見えるかもしれない。しかし、実際はアルバムのごく一部が北欧・ゲルマン神話に関係するのみで、コンセプト・レコーディングを意図したものではない」という趣旨のコメントを発しているため。
確かに、前述以外の収録曲「The Sabbath Stones」「Feels Good To Me」「Heaven In Black」等については、北欧・ゲルマン神話との関連性を認めるのは難しいことから、ニール・マーレイのコメントが実情なのでしょう。
「Anno Mundi」とは
今回ご紹介する「Anno Mundi」についても、和訳してみたところ、北欧・ゲルマン神話との関係性は薄い印象を受けました。「Anno Mundi (アンノ・ムンディ)」とは、「世界の年 (ラテン語)」「世界の創造 (ヘブライ語)」を指す言葉で、聖書の記述を根拠とする紀年法 (年を数えたり記録する方法) です。
紀元前に用いられたアンノ・ムンディに基づく暦では [世界紀元6000年] が [終わりの時] とみなされ、イエス・キリストは [世界紀元5500年] に誕生したと信じられたようです。西暦ではイエス・キリストが生誕した年を [元年 (紀元)]としますから、アンノ・ムンディにおける [終わりの時 (世界の終焉と死者の復活)]は、西暦では [紀元500年頃] に起こったと考えられます。
…などと色々と調べましたが、得た情報と歌詞の内容を照らしてみると、関連性はあまり見受けられません。イントロのコーラスの歌詞とテイストがやや聖歌っぽいですが、それぐらいでしょうか。有体に言ってしまえば、ヘヴィメタルの楽曲にありがちな、雰囲気を重視した散文的な歌詞に類するものでしょう。
この種の歌詞については、細かく分析しようとすることで拡大解釈やこじつけが生じ、かえってとんちんかんな方向に飛んでいく恐れがあると考えます。演奏のニュアンスと合わせて、歌詞の意味を感じ取るぐらいがちょうどいい気がしますね。あくまで個人的な考え方ですが。
マーティン時代の白眉
演奏面についても触れておきますと、1990年の『Tyr』発表時、ブラック・サバスのメンバーはトニー・アイオミ (Gt.)、コージー・パウエル (Dr.)、トニー・マーティン (Vo.)、ニール・マーレイ (Ba.)、ジェフ・ニコルズ (Key.※サポートメンバー)の5名です。
トニー・アイオミはブラック・サバスの首魁であり、ハードロック及びヘヴィメタルの成立と進化に莫大な影響を与えた人物。コージー・パウエルとニール・マーレイは超一流のリズム隊で、サバス以外ではホワイトスネイクでも共演。 ジェフ・ニコルズは入れ替わりの激しいサバスでは例外的に、長期に渡りバンドを支えた熟練のキーボーティスト。
ここで特筆しておきたいのは、ヴォーカルのトニー・マーティンについて。ブラック・サバスのヴォーカルに関しては頻繁にメンバーチェンジが行われていますが、在任期間の長さと影響の大きさから判断して [オジー・オズボーン時代] [ロニー・ジェイムズ・ディオ時代] [トニー・マーティン時代] の3つに分けられます。
オジー・オズボーンとロニー・ジェイムズ・ディオはともに超有名なヴォーカリストですから、細かい紹介は省きますが、この2人はクセが非常に強い。聴けば一瞬にして彼らが歌っていることが把握できるような、強烈なパフォーマンスが魅力です。ただし、そのキャラの強さから音楽性の幅を狭める面もありますし、好き嫌いも分かれます。
一方、トニー・マーティンに関しては、カリスマではオジーに遥かに及びませんし、ハイトーンとテクニックではロニーに敵いません。しかしながら、マーティンのすっきりとした声質と過剰な色付けがない歌いっぷりは、楽曲を活かす点においてオジーとロニーを上回っています。
食材で例えるならば、オジーやロニーは [霜降り肉] [フォアグラ] [フカヒレ] のようなもの。どんな料理に入れても主役となり、料理全体を楽しむというよりも、その食材を味わうような雰囲気。それに対して、マーティンを例えてみると [豆腐] [白菜] [白身魚] といったところ。単体でのインパクトは弱いものの、幅広い料理に馴染むことができます。
そうしたキャラクターが発揮されたのでしょう、マーティン時代のアルバムである『The Eternal Idle』『Headless Cross』『Tyr』等の収録曲はバラエティに富み、アルバムを通して聴いても飽きない高クオリティ。特に「Anno Mundi」は幻想的で美しいメロディとヘヴィで壮大なサウンドが調和した名曲です。ぜひ、ご一聴ください。
余談ですが、本棚を漁っていたところ音楽雑誌「Player」の1990年10月号が発見され、『Tyr』リリース直後のコージー・パウエルのインタビューが掲載されていました。なかなかレアな情報が詰まっていましたので、内容を整理した後に、新たに項目を設けるか別記事にて追記したいと思います。
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