ゴンズイを食べる – うまい魚には棘がある

天は二物を与えず?

「綺麗な花には棘がある」というけれど、おいしい魚には「美味」という長所と引き換えに、何らかの短所があるように思います。鮮度が落ちやすいサバ、鋭い鰭をまとったカサゴやメバル、見た目がよろしくないカワハギ、噛まれると大流血するタチウオといった具合ですね。短所というより、人間にとっての不都合と表現すべきかもしれません。 

堤防釣りの人気魚:カサゴ。鋭い鰭には弱毒があるという。

そんな不都合の極致が「おいしいけれど毒がある」というものでしょう。フグの王様として名高いトラフグは、テトロドトキシンという猛毒の持ち主ですが、その美味はまさに「絶佳」と評すべき。ただし、トラフグを始めとするフグの類は内臓に毒があり、捌いて食用にするのに免許も必要ですし、家庭の食卓にはなかなか並べられません。 

ナマズ目の海水魚

そこで、今回は「知る人ぞ知る食用魚 & 毒があるので敬遠されがち & 家庭でも味わうことができる」というお魚をご紹介します。その魚とは 「ゴンズイ」です!

堤防釣りの不人気魚:ゴンズイ。鋭い棘には猛毒があるという。

皆さんはゴンズイをご存知でしょうか。海釣りでよく釣れる毒魚で、体表にある毒棘に刺されるとたいそう痛むため、釣り人から嫌われる魚です。ナマズのような特徴的な見た目や、「ゴンズイ玉」と呼ばれる多数で群れをなす習性からも、薄気味悪く思う人が多いのかもしれません。

個人的にも、大学生の頃に無人島で魚突きを楽しんでいたとき「ここに魚がいそう!」と岩陰をのぞき込んだところ、眼前10センチにゴンズイの大群が蠢いていた際には、パニックを起こしてあやうく溺れるところでした。 

そんな嫌われ役のゴンズイですが、一方では「食味はたいそう美味である」という噂も聞いていました。なので「まあ、機会があれば食べてみよう」 と思っていたわけですが、今回、意を決して食べてみました!

早朝の浅川漁港。天地清明ともいうべき晴れやかさ。

というのも、釣れすぎたんですよね。 宇和島の浅川漁港を再訪したところ、ゴンズイとカサゴが7:3ぐらいの割合で爆釣しまして。これまでゴンズイはそっとリリースしていましたが、あまりの存在感に看過もできず、ついに「ええい!食べてみよう!」と思い至ったわけです。 

良型のカサゴが目立つが、主役は袋に入った毒魚である。

自宅へ持ち帰った釣魚は、ゴンズイ4匹とカサゴ2匹。いずれも20cmを超えるいいサイズです。カサゴはもう少し大きいのがさらに2匹釣れていたのですが、今回のメインはゴンズイで、カサゴは付け合せ。よって、カサゴは同行した友人に2匹ほどお譲りしました。 

家で刺されるかも

さて、ゴンズイの食べ方は存外に幅広く、煮付け・天ぷら・唐揚げ・味噌汁・蒲焼きなどにすると美味だといいます。ゴンズイの毒はタンパク毒で、熱を加えると失活するため、加熱調理が基本となりますね。今回はゴンズイ食への初挑戦なので、ゴンズイの姿をよく残すことができる煮付けを作ってみることにしました。

背に生えるのが毒棘の名残り。こんな半端な切り方をしてはダメらしい。

ゴンズイの毒棘は背鰭に1本と両胸鰭に1本ずつの合計3本あります。この毒棘は釣り場で切り落としておくのが安全だと言われますが、写真のように斜めに切り落とすと、尖った角っこが毒棘の用を成し、結局は毒を注入されて苦しむことになるそうです。安全のためには、根元から平行に切断するのが肝要ですね。

また、ゴンズイは体表の粘膜にも毒があります。傷のある手で触ってしまうと、その傷から毒が入り込んで痛むそうですから、厚みのあるゴム手袋を着用して調理すると安心でしょう。体全体を塩もみしたり、エラを外すために頭を掴んだりすると、どうしても毒棘の近くをつかんでしまいますし。

ナマズやドジョウにに似て愛嬌があるが、あまり立派な容姿の魚ではない。

さて、毒棘を断ち切り、粘膜を塩でもみ落とせば、もはやゴンズイも普通の魚と変わりません。つぶらな瞳が愛らしく、ナマズのような髭にも剽軽な趣きを感じます。あとは醤油・酒・ 味琳・砂糖を適量で混ぜ合わせ、カサゴや大根と一緒に煮付けていくだけです。 

ゴンズイは細い魚だが、4匹もまとめて皿に盛れば迫力がでてくる。

このように仕上がりました。良型のゴンズイ×4匹とカサゴ×1匹の煮付けですから、なかなかのボリュー ム。ゴンズイのビジュアルをほぼ保てているのも個人的にポイント高いです。食卓には、ゴンズイとカサゴの煮付けの他に、カサゴの刺身やカサゴのアラの味噌汁も並べられ、釣魚のフルコースとなりました。 

ゴンズイのお味

それでは、実食してみましょう。ゴンズイの煮付けに箸を伸ばし、骨から身を剥がしてみると、真っ白な肉があらわになります。その白さに不思議な安堵を覚えながら、つまみ取って舌に乗せたところ…これはうまい!皮はプルプルとゼラチン質で、身はねっとりとした上質な白身です。

釣魚のフルコース。ゴンズイがいなければカサゴのみで少し寂しかっただろう。

同じく皿上にあるカサゴと食べ比べてみても、ゴンズイの方が身の繊維が細かくて歯ざわりがよく、カサゴには少しある磯臭さもゴンズイには全くありません。食べやすさに関しても、少し身離れは悪いものの気になるほどではなく、尾鰭あたりの細かい骨も柔弱なので、頭骨と中骨以外は全て食べられます。 

なお、頭には毒棘があるうえ、可食部は目・皮・頬肉ぐらいと多くありません。しかし、ゴンズイはプリプリの皮が味わい深く、唇や顎には皮がたくさんついているので、捨てるのはあまりに惜しい。天ぷらや唐揚げにするなら頭はいらないけれど、捨てずに味噌汁などにして食べると、出汁としても具としてもよい役目を果たすでしょう。 

余談ながら、カサゴは刺身で美味。肝・皮・胃袋・白子も湯通しで食べられる。

おわりに

釣魚の食味は鮮度や季節、生息環境による個体差が大きいため、一概に評価はできませんが、それにしても今回食べたゴンズイは非常に優れた味わいで、これまでリリースしてきたことに後悔を覚えるほどでした。味のよい白身魚として高く評価されるカサゴを「ゴンズイに比べると磯臭い」と思わせるぐらいですから、相当なポテンシャルを秘めているといえるでしょう。 

毒魚として忌避されがちなゴンズイですが、その美味さには申し分がなく、毒に関しても分かりやすい位置に毒棘が3本あるだけで(アイゴやオコゼといった全身に毒鰭がある魚種に比べて)対処しやすいことから、ぜひ広く味わっていただきたいお魚です。 私はその味わいが非常に気に入ったので、今後は「好きな食べ物:ゴンズイ」と各方面に発信するとともに、釣れたら積極的に食べていきます。いつか刺されると思いますが。

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